貝類採集に明け暮れた日々 -晩秋の夜磯遠征 – 紀伊・房総・三浦

貝類

釣りblogなのにいきなり変なタイトルが出てきたぞ?と思われた方々が多いと思いますが‥

今回は表題通り貝の記事になります。

実は学者を目指していたくらい貝類が好きで、琵琶湖にのめり込まなければこれ一本でやっていたと思われます。

メインは日本近海の南方系と淡水貝。これからはそんな貝類の話もblogにまとめていくので興味がある方はご覧ください。

多分ルアーフィッシングと同じくらい、もしくはそれ以上貝類の方が詳しいので貝仲間も募集中です 笑

千葉県房総半島から始まり九州~紀伊半島と18年間

小学2年生くらいの頃に親に連れられて磯遊びをしていたのが始まりだったと記憶しています。

(たまに年齢を聞かれますが現24歳)

房総半島は貝類の宝庫

当時は漁港の隅に捨ててある漁労屑漁りで宝物がザクザク取れた。

あちこちに山積みになっているゴミ山の中から生貝や腐敗した貝を拾い集めては標本をつくる。

今では港が綺麗に整備されていたり漁師さんの高齢化でそんな楽しい漁港もほとんど無くなった。

当時のK漁港は深場の刺し網を操業していて深海性の貝が拾えたり、H漁港の漁労屑の多さは魅力的だった‥

漁労屑採集の恩恵を受けられた最後の世代だったのでしょうか、、

欲を言えばあの当時に和歌山や高知エリアのポテンシャルを体験したかった。

他にも手持ちの標本の中には今では希少種となってしまった貝達も多くあります。

自然の環境変化は早い‥ そういう意味でも”今”を楽しんでいきたいですね。

紀伊半島

さて、今年もFD完品を求めて夜の地磯を這いずり回る時期がやってきました。

(FDとは主にタカラガイのフレッシュデッドの略。浜に打ち上げられた直後だと艶の保たれた死殻を拾うことができます)

良いサラシが広がる潮岬

最初に訪れたのは和歌山県 白浜~串本間の南紀エリア

冬場は干潮が夜に来ることが多いので必然的に夜間の観察が多いです。

磯ヒラやメバリングしたい気持ちをぐっと抑えて(竿は積んでいるのでいつでもできますが笑) 暗闇の磯を這いずり回る‥

最低潮位一桁台。絶好の観察日和です!

まずは白浜エリアから、

ツマジロナガウニ (Echinometra tsumajiro)
ナツメモドキ (Erronea errones)
ヒメクワノミカニモリ (Cerithium zonatum)

姿勢を低くしてタイドプールや石の隙間を覗き込むと、、

外套膜に覆われた生きているタカラガイを見つけることができます。

ヒメクワノミカニモリ (Cerithium zonatum)も白浜エリアならではの巻貝ですね!

クモガタウミウシ (Platydoris ellioti)

タイドプールでは貝類の他にもカラフルな魚や様々な生物を観察することができます。

夜の磯は天然の水族館!

続いてすさみエリア。

ハナビラダカラ (Monetaria annulus)

この蛾の幼虫のような外套膜に覆われた姿が個人的に大好きです。笑

タカラガイは外套膜の中で炭酸カルシウムを分泌することにより貝殻を形成しています。

殻全体が包まれているのでフジツボや海藻などの付着も防がれていて、ツヤツヤの宝石のような美しい貝殻ですよね!

ハナマルユキダカラ (Monetaria caputserpentis)
ハナビラダカラ (Monetaria annulus)

メオニツノガイのヤドカリ入りとシワホラダマシ (Cantharus mollis) の蓋付き標本を持っていなかったので2つ採集。

今回はウネリが強く潮間帯上部しか観察ができませんでした。

打ち上げの方も微妙なので串本エリアに向かいます!

岩の奥で息を潜めているヤクシマダカラ (Cypraea arabica)

一つ見つけると似たような場所で複数出てきます。

ヤクシマダカラは房総半島時代には憧れのタカラガイでした。幼貝は稀に見つかるのですが、生息北限に近いからか成貝になる前に死滅してしまうのでしょうか。

ここ串本エリアではありがたみを忘れるくらい沢山いる普通種です 笑

昼間は超有名ポイントの潮岬 オゴクダ浜。

岩場を挟んで二つに分かれていて、メインは潮岬灯台横から降りる小浜のほう。向かって左側の微小貝溜まりが魅力的です!

ビーチコーミングの聖地だけあっていつも人が多いのですが今回は貸切。

狙いはFDのクロシオダカラとウミウサギ類

テンロクケボリ (Pseudosimnia punctata)
これは何個拾っても嬉しい。

テンロクの方は直ぐに見つけましたがクロシオはスレ貝しか見つからず‥

代わりにツマベニメダカラ (Purpuradusta minoridens)とヤナギシボリダカラ (Luria isabella) のFDと沢山落ちているガクフイモ、サラサバイの綺麗な個体も拾っておきました。

打ち上げメインで近くの浜を点々とするも全て微妙。今年もまともな台風は来なかったな‥

串本 夜の部、

大好きなハボウキガイ科のイワカワハゴロモ (Pinna muricata)

相変わらずヤクシマとナツメモドキは沢山見かけます。

ハチジョウダカラ (Mauritia mauritiana)

こちらもヤクシマかと思ったらハチジョウダカラの幼貝ですね! 堂々と石の上を歩いていました。

房総や南紀では成貝をあまり見かけません

ヤドカリの集会の中から綺麗なムカシタモト (Canarium mutabilis) を3つ採集、後で気付きましたが1つだけ生貝でした。

マダライモ (Conus ebraeus)
ナツメモドキ (Erronea errones)

マダライモの写真を撮っていたら波を被ってびしょ濡れに、、

こちらはメダカラ (Purpuradusta gracilis)

殻はあれだけ打ち上がっているのに生貝はあまり見かけません。 夜でも石の裏に隠れていて表にはほとんど出てこない引き籠りタイプ

近くにはマガキガイのコロニー、いつもならスルーですが美味しいと聞くので少し頂きました。(ソデボラ科かなり旨いですよね!)

蓋が見えなくて死殻だと思ったミツカドボラ(Cymatium nicobaricum) を持ち帰ってびっくり、こちらも生貝でした。

夜が明けて最後に串本の本命ポイント、

イボダカラにクチグロキヌタ、コモン、タル、オミナエシ、チャイキヌ‥etc. 1m四方に20個は落ちている。

ここは高確率でFDに出会える穴場。風化した貝を見るとほとんど人が入っていないことが伺えます。

ヤクシマ、ホシ、ボウシュウボラ、ベッコウイモ、タガヤサンミナシ

右上のボウシュウボラと比べると分かるホシダカラのサイズ感。

手に持っているのは今回最大の75mmヤクシマ 握り心地が良いです 笑

近くには先端が僅かに欠けたカンコガイ。採集ならず残念

サラサミナシ、クロダカラ、クチムラサキダカラ (Lyncina carneola) FD

近くにはキヌカツギイモ (Virgiconus flavidus) と棘付きのミナミオオブンブク!

よく見ると‥

肛門付近に白っぽい二枚貝が付いている!

オオブンブクヤドリガイ (Lyncina carneola) これは初採集。

他にもミスガイ、ナツメガイ、ヤタテガイ、コマダライモ、ノシガイ、イソバショウと普通種のオンパレードで終了。

おまけにFD餌木2つ

睡眠不足で夜磯を這いずり回った疲労感は南アルプス遡行と同じくらいでした。もうクタクタです笑

疲れた体に鞭打って次に向かったのは関東地方。

房総半島や三浦半島はタカラガイの種類と数が非常に多い地域です。

夜磯の観察では和歌山より多くの生貝に出会えるという印象ですが、近年タカラガイが減っているといった話もあります。

10年以上の時を経て房総半島の今を観察してきました。

房総半島

とその前に少し寄り道、

千葉県立中央博物館と学芸員のK先生には大変お世話になりました。
今のフィールドワークの全てはここで学んだと言っても過言ではありません。

ここ最近のめり込んでいる琵琶湖の二枚貝と紀伊の陸貝のお話をさせて頂いた後は、軽く実家に戻って用事を済ませてから夜磯観察に向かいました。

コモンダカラ (Naria erosa)

最低潮位に間に合わなかったので一気に南下、館山付近を回ります。

打ち上げの貝溜まりにタカラガイが少なかったので少し不安になりましたが、磯場ですぐにコモンを発見。

オミナエシやハナビラと続き、ハナマルユキはそこらじゅうに生貝がくっ付いています。

潮間帯上部の表面だけでも100個体以上は目視できるでしょうか、普通種でもこれだけまとまって見られると嬉しいですね。

満ち潮でリリース出来なくなるので磯場入り口付近の個体のみを集めてもこれだけの数です。
エビスガイ (Calliostoma unicum)
ヨフバイ (Nassarius sufflatus)
シロイガレイシ (Drupa ricinus)
ベッコウイモ (Conus fulmen)
イボシマイモ (Conus lividus)(良く見るとキヌカツギではなくイボシマの方でした)
ハナマルユキダカラ (Monetaria caputserpentis)
コモンダカラ (Naria erosa)
オミナエシダカラ (Naria boivinii)
ハナビラダカラ (Monetaria annulus)

次のポイントは房総で最もヤクシマダカラと出会える可能性が高い場所

石の裏を丁寧に覗いていきます。

メダカラとナデシコガイ (Chlamys irregularis)

マダコやタコノマクラが沢山見られたり、甲殻類の種類も豊富で観察が楽しいです。

岩のスリットの奥に黒光りする物体が。もしやと思い摘み上げてみると‥ 念願の房総産ヤクシマ!

ヤクシマダカラ (Cypraea arabica)
ちょっと艶が失われていますが成貝は初なのでお持ち帰りです。

タッパーに入っている白い微小二枚貝はマメアゲマキ属の一種でしょうか(Scintilla sp) こちらはキープ

上げ潮がきつくなってきたので夜磯はここまで!

昼間は漁労屑をチェック。少ないながらも初採集もあり楽しめました(最後に紹介)

干されたソフトコーラルも隈なく見てきましたが、今回はウミウサギ類には出会えませんでした。結構期待していたのに‥笑

夜は三浦に移動。

三浦半島

浜を歩いていると小魚が打ち上がっている。

流石相模湾。深海魚がお出迎え!

ハダカイワシと鰓から出ている黄色いのはヒジキムシでしょうか。

近年ではオキナエビスが打ち上がったりと常に期待を抱かせてくれる場所です。

トコブシ×2、メダカラ、チャイロキヌタ、ヤタテガイ

タカラガイの個体数も非常に多く、それっぽい石の裏にはほぼ確実に2~3個は付いています。

キイロダカラは低水温にかなり弱いようで死殻が多く見られました。

メジャーポイントの目につく場所でもこれだけ残っていると嬉しいですね。
(生貝はなるべくリリースを心掛けています)
コモンダカラ、ハナマルユキダカラ、オミナエシダカラ、シボリダカラ、クロダカラ、ハナビラダカラ、キイロダカラ 、チャイロキヌタ、メダカラ

最低潮位で本命ポイントに移動。

先行者の漁り火が所々見えるが貝類採集ではない様子。

ここはタカラガイの個体数が凄まじく一つの岩から10個ほど採集できてしまうくらいの濃さです。メダカラも石の表面にゴロゴロ転がっていました。

外套膜が出ているものや石の裏の個体はスルーしてもこの量。相模の海の豊かさを感じます。
ホシキヌタ、ハナマルユキ、オミナエシダカラ、キイロダカラ 、ハナビラダカラ、チャイロキヌタ、ナツメモドキ、メダカラ

オミナエシダカラは並べて見ると個体ごとの色合いの違いが分かりやすいですね! 青色斑点でチチカケになっている成貝が美しいです。

三浦では拾う気が失せるくらい個体数が多いです。同時にホシキヌタの生貝もよく見かけます。

チャイロキヌタ (Palmadusta artuffeli)
カミスジダカラ (Palmadusta clandestina)

三浦半島のチャイロキヌタは左の個体のように黒っぽいものが多く房総よりもサイズが小さいです。

右2つはカミスジダカラ。極めてチャキヌに近いカミスジタイプもあるので線引きが難しい‥ 三浦ではチャキヌに混じって割と良く見かけます。

その他数箇所を回るも新たな種類を見つけることはなく、十分写真は撮ったので観察のみで三浦を後にしました。

帰路の途中で寄った御前崎と浜松エリアも打ち上げは少なくキムスメダカラのスレ貝以外(ツルツルだったのでスルー) 特に目に付くものはありませんでした。いつも通りカズラガイだけはやたら多かった‥

採集品

今回の漁労屑は腐貝が多く処理が楽でした。

特定の種のみを集めていた時期もありましたが、最近は普通種も記録として採集するようにしています

左上から
スカシガイ、コロモガイ、シチクガイ、ナシジダカラ、ムカシタモト、ナガニシ、クルマガイ、イガグリガイウミヒドラ(貝ではなくヒドロ虫)、ヤクシマタガラ、メダカラ(幼貝)、カコボラ、ヤツシロガイ(極小)、ムギガイの一種、ミドリイガイ、ウニレイシ、アカニシ、ハマシイノミガイ、マガキガイ、フトヒメヨウラク、カゴメガイ
右側左上
ヤエウメ、ミゾガイ、トガリカセン、コゲジュズカケクダマキ、シュモクガイ 、アズマニシキ、ナデシコガイ、イタヤガイ、マメアゲマキ属の一種、トゲトサカノウグイス、ククリボラ、モシオガイ、ミドリアオリガイ、ベッコウイモ、イボシマイモ、ボウシュウボラ

コゲジュズカケクダマキとシュモクガイは初追加。 ボウシュウボラ、カコボラ、ナガニシは漁師さんからの頂きもので晩ご飯になりました 笑

タカラガイの数は過去の記憶と大きく変わらず、少なくとも今回の採集地では安定した母数が維持されていることが確認できました。

房総と三浦半島は首都圏からのアクセスが非常に良い上に全国的に見ても貝類採集に適している貴重なフィールドです。 これからも豊かな生息環境が保たれていくことを願います。

次の遠征先は四国か九州方面

とその前に琵琶湖が大減水しているうちにカワニナを観察したいですね。 気になっている沖の箇所に潜る装備も揃ったのでかなり楽しみです!

‥というわけで今後はルアーフィッシングと貝類のダブルジャンルという謎多きブログになりますが、引き続き宜しくお願い致します。笑

貝類採集時の注意点
漁業権や採集禁止場所の設定がある場合があるのでお気をつけください。(詳しくは各漁協に問い合わせ)

夜磯採集に関して
磯物漁業権の対象物は一般的なアワビやサザエ意外にもバテイラ等の巻貝やカメノテなど割と広い範囲のものが含まれる場合がありますが、食用とされないタカラガイやイモガイ等は対象とならない場合が多いです(確認必須)
ただ、漁業権対象外の貝類であっても夜磯での採集となると密漁の疑いをもたれる可能性があるので漁協からは許可とも禁止とも言えない曖昧な返答が多いです。推奨するものではありませんので自己責任でお願い致します。

近隣住民の迷惑になる行為には気を付けましょう。(大声での会話、迷惑駐車 等)

今後も楽しく観察ができるように生貝の獲り過ぎには気を付けましょう。(私も標本採集を目的としているのであまり人に言えることではありませんが、同種であれば採集個数を少量に留めたり、なるべく腐貝や死殻を持ち帰るようにしています)

観察で裏返した石は元の位置に戻しましょう。(観察し終わった貝類のリリースは生息条件の合う場所にしっかりと個体ごとに付着させるようにしています)
余裕があればゴミ拾いするのも良いですね!(徳を積んで良い貝が拾えるように祈りましょう 笑)
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